いろいろなコーチが未来が大事だと言っています。
何ででしょうか?
今回はその点を私なりに掘り下げてみようと思います。
なお、今回は若干ムズカシイ説明がしてありますので、ご了承ください。
多くの人は現在に何か上手くいかないことがあれば、それは過去の○○が原因だと考えます。
・私は算数が苦手だったから、経理の仕事に就けない
・私は英語が苦手だったから、英語を使った仕事に就けないと
・私は運動音痴だからテニスはできない
など
このため、本屋で経理や英語の仕事に転職するようにチャレンジしようと思った矢先に、子どもの頃に、算数や英語の授業で失敗をした恥をかいた記憶を思い出して(思い出さなくとも無意識下でも)、『どーせ私には無理だ』と考えてしまうのです。
テニスの指導であれば、『ほら、ここが問題だよ』『この時に腕が伸びてないよ』などと、失敗したシーンを何度も指摘するでしょう。
こうすることで上手くいくどころか、逆にテニスが下手くそなイメージをあなたに焼き付けます。
そして、あなたはそのイメージ通りのプレーをしてしまいます。
イメージ通りに失敗して、先生に怒られて『やる気』を失ってしまいます。
世の中は過去の失敗、『あの時も同じ失敗をしたよね、何度言ったら分かるの』と、未来の成功イメージではなくて、過去の失敗について責める論調が強いです。
そして指導方法も、上手くいかなかった点にフォーカスします。
過去の失敗に目を向けて、それを克服することが成長であり、正しい指導法であると思われています。
この正しい指導法は、あなたが大人になっても続きます。
職場で何かミスを繰り返してしまう人は、間違いなくミスを指摘されて、その指摘通りのミスをしてしまっていませんか?
いわば逆向きのアファメーションが実行されているのです。
アファメーションとは臨場感、『私はそんな人間だという感覚』を高めていく技術です。
さて、なぜコーチングでは過去、とくに過去の失敗に向けさせないか?
それは過去の失敗を思い出させた時に、その人の脳は実際に失敗した時と同じ脳の部位が働くからです。
トラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の権威である、ボストン大学医学部教授であるベッセル・ヴァン・デア・コーク教授によれば、
1999年の9月のある晴れた朝、専門職に就いている40代の夫婦、スタン・ローレンスとユト・ローレンスは。デトロイトでビジネスミーティングに出席するため、カナダのオリンタオ州ロンドンにある自宅を出た。(・・・中略・・・)スタンとユートは、カナダで史上最悪の87台玉突き衝突事故の13台目にあたる車の中に閉じ込められた。
やがて不気味な沈黙があたりを包んだ。スタンはドアを開けようと悪戦苦闘したが、トランクを踏み潰したトレーラーが二人の車にのしかかっていた。そのとき誰かが突然、乗っている車の屋根を叩き始めた。どこかで女の子が金切り声を上げていた。『ここから出して―体に火がついちゃった!。』二人がなす術もなく見守るなか、少女は乗っていた車が炎に包まれ、焼け死んだ。
(・・・中略・・・)
帰宅したスタンとユートは二人ともその晩、眠る気になれなかった。意識が漂い出すのを許したら、死んでしまうように思えたからだ。彼らは過敏になり、びくびくし、緊張していた。その晩も幾度となく、大量のワインを飲んで恐れを麻痺させた。彼れは付きまとってくる光景を消し去ることができず、繰り返し湧き起ってくる疑問も追いやれなかった。もっと早く家を出ていたら?途中でガソリンスタンドに寄らなかったら?そんな状態が3か月続いたあと、2人はウエスタンオリオン大学の精神科医ルース・レイニアスに助けを求めた。
レイニアス医師(その数年前、トラウマセンターで私が指導した)は、スタンとユートに、治療を始める前に2人の脳をfMRIスキャンで可視化したいと告げた。fMRIは、脳内の血流の変化を継続的に把握することで神経の活動を計測するが、陽電子放射断層撮影法(PET)とは違い、検査を受ける人が放射線にさらされることはない。レイニアス医師は、私たちがハーヴァード・メディカルスクールで採用したのと同じ種類の、台本によってイメージを喚起する手法を使った。その台本は、車に閉じ込められている間にスタンとユートが経験した光景や音、声、臭い、その他の感覚を捉えたものだった。
まずスタンがfMRIに入り、たちまちフラッシュバックを経験した。ハーヴァードでの私たちの研究におけるマーシャルの場合とまったく同じだ。スキャナーから出てきたスタンは、汗をかき、鼓動が速まり、血圧が恐ろしく高かった。『事故のとき、まさにこういう感じでした』と彼は報告した。『きっと死ぬんだ、どうあがいても助からないと確信していました』。スタンはその事故を、三か月前に起こったこととして思い出すのではなく、追体験していたのだ。
べッセル・ヴァン・デア・コーク (著), 柴田 裕之 (翻訳) 『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』紀伊國屋書店P109-111。
さらに
スタンの扁桃体は、過去と現在を全く区別していなかった。
スタンの脳スキャン画像には、フラッシュバックが起こっているさまが現れていた。(・・・中略・・・)彼の扁桃体は、まるでスキャナーの中であの自動車事故が起こったからのように活性化し、強力なストレスホルモンの分泌と神経系の反応を引き起こした。そのために彼は汗をかき、震え、胸がどきどきし、血圧が上がった。
同上114-115。
この引用から分かることは、過去に目を向ければ向けるほど、脳はその出来事が今、起こっていることだと認識してしまうことです。
それは過去の臨場感を強化してしまうことであり、過去の失敗やトラウマやPTSDなどの記憶をますます強化してしまうということです。これにより人はますます過去の奴隷に成り下がってしまうリスクが高いということを意味します。
反面、コーチングの目的は、ゴールのコンフォートゾーンの臨場感を強化することであり、今とは全く違う、新しい自分を取り巻く新しい関係性を築いていくということです。
この関係性の結びつきの強度が臨場感でもあります。
過去から続く、現状の臨場感が高ければ、その状態が続いていくということを意味します。
とは言うものの、カウンセリングのように過去の解釈を変える方法もあるという声が聞こえてきます。
確かに、前頭前野という部位が活性化してIQが高まっていれば、過去の失敗と現在の区別がつき、過去の出来事に対しる解釈を変えることができるかも知れません。
なお、ここで注意してほしいのは、あくまでも解釈を変えるです。
かつ、それはあくまでもIQが高まっているときに有効に作用する話です。
仮に、何かしらの理由でIQが低下すると、過去の失敗がフラッシュバック、『ああやっぱりあの時の失敗が原因で、今がこうなんだ』と考えてしまいがちです。
もっとも大概、嫌な気分に侵されているときは、前頭前野の機能が低下して、大脳辺縁系という、前頭前野よりも、1段情報処理の階層が低い部位が活性化しています。
過去の失敗や嫌な記憶がダムの水で、それを抑えているのが前頭前野だと考えてみてください。
IQが高まっているときは、ダムの障壁で水を抑えることができますが、一方で、障壁が低下もしくは欠損したら水が漏れてしまいますよね。
仮に、水のことをオレンジジュースだと思い込んでも、当人が本当にオレンジジュースが飲みたいのか?
はたまた、飲んでるうちにオレンジの味が薄れてきて、水になってしまったら元も子もありまえんよね。
いずれせよ流れてきた水で溺れてしまうリスクが高い。
なお、溺れてしまうと(過去の失敗からくる無力感が度を越えると)、ヘビやトカゲなどの爬虫類が冬眠をするように人間もまた動けなくなります。
これは生き残るためのサバイバルモードで、ウツになる、カラダに力が入らなくなる、生きている感覚がなくなる、引きこもるなどの反応を引き起こします。先の前頭前野の情報処理よりも2段階下のモードです。
では、コーチングはというと新しい未来記憶を作ります。
詳細は、長くなるので別の機会に譲りますが、そもそもの記憶を引き出す脳の神経回路の結びつきを変えて、意図的に過去の失敗自体を思い出しにくくします。
言い換えれば、未来記憶の神経回路を活性化させて、今度はことあるごとにそちら側の記憶を思い出していくようにします。
未来記憶をダムで例えると、そもそもの水を抜いてしまえという発想です。
溺れるリスクを抑えて、抜かれた水をろ過して、さらにそれで水車を回して未来を切り開いていく為のエネルギーに転用していくのがコーチングです。
非言語セルフコーチング講座 in 大阪
日時 10月14日(日) 13:10-15:50 予定
場所 大阪市内 ※参加者の方に個別にお伝えします
参加コーチ 石元めぐみ 斎藤貴志
定員3名 残り2名
※運動のできる格好でお願いします
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