広島県に本社を置く自動車メーカーマツダのお話です。
『世界一の車をつくる』
そのためには、世界最高のエンジンが必要だ。
「マツダに、世界一のエンジンをつくるにあたって、キーマンはいないのか」
プロジェクトチーム内での会議での問いかけだ。2007年のことだ。
「一人だけいます。というよりその人しかいません」
白羽の矢が立ったのはH部長。今やマツダ内外でミスターエンジンと呼ばれている有名人だ。
H部長について説明したい。話は2001年にさかのぼる。
H部長は、入社以来エンジン畑一筋に生きてきたが、この年より先行開発部という将来考えられる技術の可能性を検討する部署を任されていた。部員は総勢30名。
これはトヨタや日産の同部署と比較すれば圧倒的に人数が少ない配置だ。先行開発をするには、最低でも100名くらいの要因が必要らしい。それをマツダはこの人数でこなしていた。
おまけに先行開発とは名ばかりで、先行開発部といえば聞こえはいいが、実際は、製品化されるかどうか分からない技術を相手にした仕事であり、他部門の応援に使われることの多い便利屋的な部署だった。
当時のマツダでは花形部署ではない。むしろ日陰の存在と言った方がピンとくるかもしれない。
自分自身も「会社からほっとかれた存在だと感じていた」とH部長も後に語る。
それでも他部門から持ち込まれるデータ解析の仕事を取扱い、出来そうであれば、「ハイやります」といった日々の繰り返しだった。
そんなH部長に転機が訪れる。2003年の春の出来事だ。
H部長は社内の意識調査を見て愕然とした。部のメンバーの士気が自分が思っていたよりも低いことに驚愕した。名目は商品の先行開発となっているが、実際は他部門の応援だ。これでは部内のヤル気が高まるわけがない。
「これはまずい」
H部長は意識改革を断行した。
自分自身を含めて、部内に蔓延している疎外感を払しょくすることから始めた。
それまでの他部門から依頼が来たら仕事を受けるという消極的な態度を排除した。
そのために、以下のような文面を部員に送った。
次は業務効率ということですが、みなさんは、「今日は充実した日だった」と思って帰る日がどの程度ありますか。目の前のやりやすい仕事から片づけていませんか。後ろ向きな議論に時間を費やしていませんか。そうしたことは誰にでもあることですが、要は程度の問題です。何が自分たちの業務の成果になるのか、どうすればそこに集中できるのかをもう一度考えてください。批評家はいりません、自らが提案者になってください。
各人が計画的に日々生産的な仕事ができるようにするにはどうすればいいかという提案を考えてください。
人見光夫著『答えは必ずある―逆境を跳ね返したマツダの発想力』ダイヤモンド社 P56。
この手紙は部下たちの心に響いた。
部員達は、自分たちで開発テーマを定め、その中に依頼された仕事を取り込むようなった。
have to(○○しなければならない)の仕事が、want to(~したい)に変わったのである。
余談だが、このhave toとWant toに関して、米国ハーバード大学ビジネススクールと、The Pacific Instituteという会社の共同研究によれば、Have to ベースとWant toベースの会社を比較して、売上では2倍、営業利益においては平均で756倍の差が生じている。
それが功を奏して部員の意識が変わった。解析の能力、計算能力が格段に高くなり、さらに精度を高めようとするようになった。
その中で選んだテーマに超圧縮ガソリンエンジンがあった。
この研究が後のマツダの運命を左右することになるとは、この時はまだ誰も知る由がなかった。
ゴールからみればすべては必然なのだ。
続く
参考文献
宮本喜一著 『ロマンとソロバン』 株式会社プレシデント社 2015年
セミナー情報
1.『自己洗脳で人生を変える日記の付け方』
日時 2015年11月28日(土)13:00-15:00
場所 京都(会場はお申込者に個別にご連絡します)
定員 20名
講師 赤坂 ユニコ 菜生(テトラヒドロン人間関係研究所 所長)、斎藤貴志(苫米地式コーチ)
料金 20,000円(税抜)
2.『テーマ夢を叶えるアファメーション』in 大阪
日時2015年12月13日(日)12:10 〜15:00
会場 貸し会議室 大阪研修センター 〒532-0024 大阪市淀川区十三本町1-12-15 ドルチェヴィータファースト3階 アクセスマップ http://www.kaigishitsu.ne.jp/accessmap/index.html
定員6名
講師 佐藤星児 三國真弓 斎藤貴志
料金5,500円