1996年のブームの後、安室奈美恵さんの存在が薄くなっていた原因は、安室さんの活動した活動範囲の抽象度が低かったためでした。
歌やダンスは技術という低い抽象度で、具体的ということです。
もちろん、具体的な技を磨いていくことはとても大切です。
※抽象度は上げ下げを自由自在に行えることが大切です
しかしながら、いくら歌やダンスの技を磨いても、その上の抽象度を他人に抑えられていれば『他人の操り人形』です。
他人が設定したプロデュースの範囲内でしか、歌唱力やダンスを発揮できません。
安室さんはブームの最中においても『これは本当に私が表現したい世界ではない』と考えていたことでしょう。
このことは、その後に、求める音楽性の違いからプロデューサーの小室哲哉氏と決別したことが物語っています。
しかし、この訣別が元になり、安室さんは『本当に自身が求めていた音楽を追求すること』ができるようになったのです。
コーチングではこれをwant toといいます。
そして、want toなことを追い求めていく、これは好きなことを続けていくことなので、ある時点で抽象度が上がりやすくなります。
というよりは、なんでもそうだと思いますが『これはどうかな?』『あれはどうかな?』と毎日、そのことばかり考えて、試しているので抽象度は上がらざるを得ません。
別の言い方で表せば、最初は新曲のリリースやコンサートなどに関して、それまではプロデューサーや会社から『これで行こう』と指示されていました。
けれども、今後はそのあたりも自分で考えていかないといけなくなったので、安室さんの抽象度は必然的に上がります。
また『ゴールはどうなの?』と思われるかもしれません。
ゴールももちろんありました。なぜならば、人間はゴールをもつ生き物だからです。
だからこそ、私たちは猿からここまで進化できたのでしょう。
※現状維持がゴールという方もいます
もっともデビューしたての頃は、沖縄出身の安室さんは『東京でデビューして、活躍して、お母さんに楽をさせてあげたい』というゴールだったかもしれません。
しかしながら、音楽活動を続けていく中で抽象度の高いゴール、たとえば、『音楽で世界中の人を勇気づけたい。それが私の枠割だ!』くらいのレベルにまで到達したのでしょう。
実は、この抽象度の高いゴールがポイントです。
安室奈美恵さんが圧倒的な人気を誇り、その生き方や言葉、気迫に圧倒されるのか本質は抽象度の高いゴールにあったと分析します。
さて、ここで抽象度についておさらいをしましょう。
とはいえ、いきなり情報空間について書いてもなかなか意味がわからないかもしれません。
最初は、情報空間の最下層の抽象度である物理空間について理解しておく必要があります。
物理空間は簡単です。五感で臨場感を覚えることができる空間が物理空間です。
一般的な生活空間や日常空間が身近な例です。
たとえば、あなたは五感を使って、今日のランチでパスタを楽しんだとします。
まず、五感で、味、匂い、食感、色彩、フォークがさらに当たる音などの情報がたくさん入ってきます。
ゆえに、物理空間は情報量が多いです。
平たい言葉で表せば、具体的ということです。
また、パスタの皿やフォーク、パスタそのもの、そして食べるあなたも地球の引力などの物理法則が働く空間にありました。
この物理空間が働く空間が、文字どおり物理空間です。
一方で、情報空間とは、私たちが言葉で概念を考える空間、イメージの空間、インターネットで表す空間、もちろん安室さんの歌詞の世界空間も情報空間です。
今日のランチから、『来月に旅行で訪れる際に食べるであろう食事について』、スマホ検索して、いろいろと考えを巡らせたのならば、そこは情報空間です。
情報空間でのパスタは、普通は頭の中のイメージくらいしか連想しません。ゆえに、情報量は少ないです。
とはいえ、『ミーソース、アサリの海鮮パスタ、カルボナーラにしようか、イカスミスパゲッティ、ボンゴレ』など、あれこれバリエーションを思い浮かべることができます。
なので、潜在的な情報量は増えます。
抽象度は上がれば、あがるほど情報量は少なくなりますが、しかし潜在的な情報量は増えます。
このように『(概念の)情報量の大小によって階層がある』と考えることを抽象度といいます。
また、パスタについて思いを巡らせた世界のパスタは、イメージ上でその気になれば物理法則に反して、空だって飛べますよね。
なお、物理空間と情報空間は対になる考え方ではなく、情報空間の最下層が物理空間です。
では、なぜ安室さんの抽象度が上がったことが、その後の復活と、彼女の圧倒的な成功につながったのか次回説明します。
続く