※広島県にある自動車メーカーの話です。
マツダが理想の車とエンジンを追い求めていく過程で2009年の春リーマンショックがはじけた。
マツダも他の自動車会社と同様に大きな打撃を受けた。
前年比で、本業の儲けを示す営業利益では1905億円、最終損益も1633億円という大幅な落ち込みとなった。
売上も10万2000台と7.5%の低下となった。内工場の稼働率も2009年1月から2009年3月の間は50%を切ってしまう事態となった。
おまけにリーマンショックを引き金として、円高が進行した。全売り上げの8割が海外への輸出に頼っている同社は大打撃を被ってしまった。
この危機は同社の結集力を高める契機となった。
私にも経験があるが、メーカーではいわゆる開発部門、生産部門、購買部門での対立がある場合がほとんどだ。マツダにおいても例外ではなかった。
例えば開発部門が新車の設計図を描く、生産部門はそんな金型はつくれない、そんな部品は配置では、時間が掛り生産効率が悪くなると注文を付ける。
反対に、開発部門はそんなことはない、そちら側の対応が至らないためだと応酬する。
そのような光景が日常的に見られた。いつの間にか他部門へのダメ出し、自分たちの都合を押し付け、相手の立場を考えない無理難題の押し付け合いが慣例となっていた。
生産部門と開発部門の建物は本社の敷地内の同じ建物に存在しているにも関わらず、お互いの仲は良くなかった。
どこの組織にも当てはまるだろうが、社内の力関係も、例えば、生産部門出身者がトップに就けば、生産・製造部門の工場の人達の仕事が楽になる。
一方で、開発部門出身者がトップに就けば、開発部門の人達の仕事がしやすくなるのが慣例であった。これが同社のコンフォートゾーンであった。
しかし、この局面ではそんな内輪もめをしている場合ではなくなった。
この難局を打破するために、各部門の意思疎通を図る必要り、同じゴールに向かって突き進む必要がある。
そうでなければ、世界一の車をつくるどころかマツダの存続自体が危ぶまれる。
同社ではフォードが求める理想の車づくりに適した生産ラインを構築していた。しかし、それではマツダらしい車は作れない。
マツダの、マツダによる、マツダのための生産ラインの構築が必要不可欠だと判断された。それまでは各車両ごとに違う工程を組んでいたがこれだと時間的、コスト的に無駄がある。期たるべき新型車両の製造に合わせて、そのどれもに応用が効くラインの構築が求められた。
また、設計、生産、製造の責任者がゴールに向けてお互いに率直な議論を交わしあう「ランチミーティング」も企画された。
最初はぎこちなく始まったこのミーティングも回を重ねていく毎に、熱気を帯びていった。
「この部品の生産識別用ワッペン、つける必要があるのか?一枚10円もするぞ。ワッペンがなくても現場は形状で識別できるだろ」
「この内装部品の保護具は1枚100円で高すぎないか?もっと、コストダウンを測れないのか」
また、業界の常識では開発部門が図面を書き、それに対して生産部門がどの部品を使うのか等細かい検討していく。
これを逆にした。生産部門がこういう部品を使いたいので、このような仕様にしてほしいと注文するのである。
このように、着実に一つ一つ問題を解決していった。一つの部門からの視点では気が付かない問題も、他部門の目を入れることでスコトマ(盲点)が外れたのである。
チームリーダー曰く、皆の顔つきが日に日に変わっていってとても頼もしく見えたそうである。
こうやって、世界一の車をつくるというロマンはもちろん、ソロバン(コスト計算)もしっかりと練られたのである。
のびのびエンジンを量産して、実装するための話し合いの場も持たれた。そして、後にSKY ACTIVE TECHNOLOGYとして実現することとなる。
また生産と開発の協力体制を構築するための新人研修プログラムが設けられた。
例えば、生産に配属される新人は最初の3年間は開発部門で仕事覚えるという人事交流制度である。
この結果、相手の立場を理解できる、広い視野を持った技術者が養成される。
このような企画を通じて生産部門と開発部門のつながりは強固になっていった。
以前は、近視眼的な部門対立に追われていたが「なんだ同じマツダの同志じゃないか」という抽象度の高い視点が社員、従業員に醸成されることとなる。
この抽象度の高い視点が、それまでの業界の常識を打ち破るアイデアをもたらすのである。
続く
※写真は超軽量化された部品。実際に手にして軽かったのを覚えている。
参考文献
宮本喜一著 『ロマンとソロバン』 株式会社プレシデント社 2015年
人見光夫『―逆境を跳ね返したマツダの発想力』人見光夫 ダイヤモンド社 2015年
メールレター 無料
『どん底の人生から立ち上がるコーチング 絶望から希望へ』
http://www.reservestock.jp/subscribe/42409