自分には価値がないと思う夜に読む話

自分には価値がないと思う夜に
あなたが世界に与えるインパクト

「この調整、誰がやってると思ってるの？」
会議後、心の中でそう叫んでしまった夜があります。

議事録をまとめます。関係者に根回しをします。チームの空気が壊れないよう気を配ります。プレゼン資料の体裁を整えます。上司の言葉足らずをフォローします。後輩の相談にも乗ります。
それなのに評価面談では、成果が見えないと言われます。

売上を立てたのは営業部です。企画を通したのは部長です。数字で測れるものだけが光り、あなたの名前はどこにも残りません。

育休から戻った同僚が、重要なプロジェクトから外されていたこともあります。
ブランクがあるから、という理由です。彼女が組織を知り尽くしていることも、調整力があることも、評価の対象になりませんでした。

社会は、評価しやすいものだけを光らせがちです。
売上、肩書、学歴、数字。
その物差しから外れた瞬間に、罪悪感や劣等感が入り込みます。

私には価値がない。
何にも役に立てていない。
そう感じて、心が内側に折りたたまれてしまう夜があります。

けれど、あなたは一つ見逃していることがあります。

あなたが価値を感じられない時でも、あなたの言葉や行いは、すでに誰かに届いている可能性が高いのです。

後輩が会社を辞めずに済んだのは、あなたが話を最後まで聞いたからかもしれません。
プレゼンが通ったのは、あなたが整えた資料があったからかもしれません。
チームが今日も回ったのは、あなたが空気を読んで動いたからかもしれません。

影響は、しばしば意図しない形で広がります。
誰かに任せます。
たった一言をかけます。
割り込まずに最後まで聞きます。
忙しいのに返信を返します。
その小さな選択が、相手の一日や、その人の次の決断を変えます。

ここで言う影響は、立派な功績の話ではありません。連鎖の話です。目の前の小さな出来事が、時間差で次の出来事を呼び、その先で形を変えながら広がっていきます。

なぜ、あなたの仕事は見えないのか？

理由はシンプルです。価値がないからではありません。数えにくいからです。

ケア労働は、誰でもできると見なされがちです。
調整業務は、成果として数値化しにくいのです。
感情労働は、そもそも労働としてカウントされにくいのです。

実際には、そこが崩れたら組織は回りません。誰かの心が折れます。チームがバラバラになります。
でも、崩れなかったことは、評価の対象になりにくいのです。起きなかったトラブルには、点数がつきません。

スコトーマが価値を隠してしまいます

スコトーマとは、見えているのに見えない、あるいは重要なのに重要だと認識できないという、心の盲点のことです。

数字や肩書の物差しは便利です。判断が速くなります。比較もしやすくなります。
ただ、その便利さが強いほど、見えなくなる価値が増えます。ケアや調整や感情の手当ては、目に見える成果の背後に隠れやすいからです。

あなたの働きが小さいのではありません。
あなたの働きが、スコトーマの向こう側に押しやられているだけです。

若い頃、私は公衆トイレの掃除をされる方を、どこかで軽んじていました。正直に言うと、なぜそんなことをしなければならないのかと思い、屈辱に見えていたのです。

でも考え直しました。衛生は、誰かの手の積み重ねで成立しています。
そこが崩れたら、感染症のリスクは上がり、暮らしの安全は揺らぎます。
目立たないけれど、社会の基盤を守る仕事でした。

ここでも同じです。
価値がないのではなく、価値が見えていなかったのです。スコトーマが外れた瞬間でした。

たった一人の信頼が人生を動かします

元祖コーチとも呼ばれるルー・タイスは、小学生の頃に体育教師から目をかけられました。自尊心がボロボロだった彼を、その教師は最初から信じて任せました。

信じて任せてくれるなら、自分はそれにふさわしいはずだ。
そう思えた経験が、人生の方向を変えたと彼は書いています。

教師は世界を変えようとしたのではなく、目の前の子どもを信じただけです。
けれどその信頼が、その人の未来を動かし、時間差で多くの人に波及していきます。

一人の人間が受け取った信頼が、別の人に渡ります。やがて仕組みになります。教育や組織の文化に変わっていきます。連鎖とは、こういう広がり方です。

あなたの一言が、誰かの明日になります。

自分では大したことがないと思っている言葉が、相手には救いになることがあります。

あの時、否定されなかったから続けられた。
あの時、任せてもらえたから自分を信じられた。
あの時、たった一言で息ができた。

あなたにも、きっとあったはずです。
影響は、気づいた人から順に見えるようになります。

気づけない時期があるのも自然です。疲れている時ほど、見える範囲は狭くなります。価値はスコトーマの向こう側に隠れやすいのです。

価値を取り戻すための小さな実験

今夜からできる、現実的な方法を3つだけ書きます。

一つ目
自分が誰かに助けられた場面を3つ思い出します。
助けられた事実は、あなたが関係性の中で生きている証拠です。

二つ目
今日あなたがした小さな配慮を1つだけ言葉にします。
返信した。待った。聞いた。片づけた。それで十分です。

三つ目
あなたが誰かにかけた一言を過小評価しません。
言葉は、相手の未来の選択肢を増やします。

完璧にやる必要はありません。
自分の価値を感じる力は、筋トレのように少しずつ戻ってきます。

まとめ

本人が気づいていないだけで、人はすでに誰かに影響を与えています。
縁は小さな出来事から始まり、連鎖して遠くまで届きます。
金銭や肩書の尺度は便利ですが、価値を見えにくくもします。
その見えにくさは、スコトーマとして現れます。
見えにくい仕事や配慮ほど、社会の土台になっています。
誰でも無条件に、存在そのものに価値があります。