前回の記事において美人は性格が良いのか、それとも悪いのかについて書き記してきました。
ここではそもそも美人とはいったいどういた顔なのか?について書いていきます。
平均顔仮説
ある実験では光学写真のネガを重ね合わせて焼き付けていきました。この本来の目的は凶悪犯の写真を重ねて合成写真を作ることでした。こうすれば凶悪犯になる人間の特徴が分かると考えたのです。普通に考えれば究極の犯罪者の顔が作り出せると考えられますよね。
しかし、予想外のことに写真を重ね合わせていくに従って、犯罪者らしくない『ハンサム』な顔立ちとなっていったのです。
顔を重ね合わせていくにつれ、それぞれの顔の共通する部分は濃くなり、共通しない部分はだんだん薄くなっていきます。
例えば、黒子などはその人独自の位置にありますが、これは写真を重ねていくにつれてどんどん薄くなって消滅していきます。一方、目は口などのは同じ位置にある場合、その部分はどんどん濃くなっていきます。結果として、個性は消失していき、平均的な部分が強調され、平均化されていきます。
これが美人に関する初めての科学的な研究(1879年)です。
Galton,F.(1879).Composite portraits. Made by combining those of many different person into a single resultant figure. The Journal of the anthropological Institute of Great Britain and Ireland,8,132-144.
ちなみに平均顔がなぜ美人になるのか当時は二つの仮説が唱えられました。
一つは、平均顔は良く目にするのでだんだん慣れ親しんできて、良く見えるようになる。心理学では『単純接触効果』といってよく見かけるものには好意を抱くようになることが知られています。
もう一つは進化論的な考えです。これは顔が平均から大きくズレていることは、何らかの突然変異を持っているシグナルになっているという考え方です。突然変異はだいたいが有害なものなので、このような突然変異を持っていない個体平均顔を魅力的な顔と捉える考え方です。
そのような配偶者を配偶者として選択する個体が、結果的に進化に生き残って来たという仮説です。
まさに、コンフォートゾーンを維持してきた結果の顔ということです。
がしかし、沢山の顔を合わせただけで美人なのか?という疑問が湧きます。
時代は進むこと百年後の1980-90年の間位に、今度はコンピュータによって男女96人を実験群として、顔を重ね合わせました。
平均顔は、2枚、4枚、8枚、16枚、32枚と顔を重ねていきました。そして、これらの写真を学生男女の評定者に見せて、その魅力度について、1とても魅力的ではない ~5とても魅力的であるまで、5段階で評定させました。
その結果顔を重ねていけば行くほど魅力的という判定を得ました。
Langlois ,J .H.,&Roggman, L,A.(1990). Attractive faces are only average. Psychological Sciene,1,115-121.
対称顔仮説
平均顔仮説に対して対称顔仮説があります。対称顔仮説は、顔の対称性が魅力には重要という仮説です。
私たちは、非対称なものを見た時よりも、対称的なものを見た時に魅力を感じます。このような対称性への選好は『もの』でも生じますが、もっとも良く生じているのが生き物に関する刺激です。とくに『顔』に関しては微妙な対称性やその乱れを人は無意識に素早く検出して、対称的なものを魅力的と感じるようです。
ある実験では男女の顔にコンピュータ処理を行なって、もとの顔の、やや対称性を高めた顔、さらには対称性を高めた顔、完全に対称の顔を作成して、提示してこれを評定しました。この結果対度の度合いが高まるほど顔は魅力的と判断されることが分かりました。
Rhodes,G., Proffitt,F.,Grady,J.M.,&Sumich,A.(1998).Facial symmetry and the perception of beauty. Psychonomic Bulletin & Review,5,659-669.
これはタンザニアの狩猟民族でも同じ結果が出ています。
あなたも化粧をする際は、顔が左右対称に見えるように気を使うと思います。未開民族がボディペイントをする際も左右対称に施すことは、魅力を上げることと関連しています。
Little,A.C., Apicella,C.L.,&Marlowe,F.W.(2007). Preferences for symmetry in human faces in two cultures: data from the UK and the Hadza,an isolated grope of hunter-gatherers. Proceeding of the Royal Society of London. Series B,274,3113-3117.
ではなぜ左右対称が好まれるでしょうか。一つは知覚仮説です。左右対称のものは左右非対称のものよりも認知的な労力を必要とせずに認知することが可能です。そのために人はこれを美しいと感じるようになったという説です。
まさに脳は手抜き器官であるという証ですね。
もう一つは進化仮説。人やその他の動物でもそもそもの形態は、左右対称です。よって、左右対称が崩れているとことは何らかの問題が生じているという可能性を示唆します。
例えば、障害をもったりケガをしたりすると我々の非対称性が損なわれます。裏を返せば、左右対称の顔や身体は健康であり、適応度が高いことを示すシグナルになっています。
事実、対称な人の方が健康度が高い、免疫能力が高い、知能が高い、老化に伴う知能低下が少ない、染色体異常が少ないと実証されています。
Scheib,J.E.,Gangestad, S.W.,&Thornhill ,R.(1999).Facial attractiveness,symmetry and cues of good genes. Proceedings of the Royal Society of London. Series B,266,1913-1917.
Rhodes,G.,Zebrowitz,L.A.,Clark A., Kalick,S.M., Hightower ,A.,&McKay,R.(2001).Do facial averages and symmetry signal health? Evolution and Human Behavior,22,31-46.
そこで、このような顔に魅力を感じ、配偶者として選択する個体が、結果的に優れた遺伝子を持った子どもをたくさん作ることができ、淘汰されずに進化的に生き残ってきたからだというものです。
ここでは『平均顔仮説』、『対称顔仮説』について説明しました。
分量が長くなるので続きは別の記事にしたいと思います。
お付き合い頂きありがとうございます。