That others may live ~他を生かすため~


『That others may live 他を生かすため』にという格言があります。

 

この言葉は前回ご紹介した航空自衛隊に設置されている航空救難団のモットーです。

 

とくに航空救難団のメディックと呼ばれる救難員は、雪山や極寒の海で遭難した人を助けるために、パラシュートを使った降下訓練、雪山での遭難救助訓練など信じらないくらい厳しい訓練を実施するそうです。

 

メディックが実際の救難現場でワイヤーに吊り下げられ降りていく現場はもっと予測不可能な危険に満ちている。いざというときは救いの手を差しのべてくれる教官もいない。それどころか、助けられることを考えてはいけないのである。他でもない自分は助けに来たのだから。たよれる者のいない、たったひとりで、嵐の海や吹雪の山にわけはいってゆき、その極限状況をどうやって切り開き、自分だけでなく、いやむしろまず、OTHERS、他を活かすを、冷静にしかし瞬時のうちに考え、作戦を組み立てたら、果敢に断行して、いまや悪魔の化身に生まれ変わった自然という地獄から生還を試みなければならない。試みるのではない、絶対にサバイバー、遭難者ともに生還しなければならないのだ。それがメディックに課せられた至上命令なのである。

杉山隆男 『兵士を見よ』新潮文庫 P413-414

 

ゆえにメディックになる辛さは、

 

『目の前に一億円が詰まったジュラルミンケースを十箱積まされた』ときのことにたとえて、これでもう一度、と頼まれても、ためらわずにノーと断るくらいの辛さ

 

だそうです。

 

余談ですが、私も若かりし頃、ある組織の訓練において水泳の訓練で一歩間違えれば溺れてしまうというスリリングな経験をしましたが『メディックの方が遥かに苦しい、こんなの大したことはない』というセルフトークを展開して冷静さを保っていた記憶があります。

 

メディックになるために、毎年4~6名前後が訓練課程を受講するそうですが、全員揃って卒業できることは稀だそうです。

 

そのくらい過酷という意味です。

 

でななぜ、このような過酷な訓練に耐えられるのか?

それが『That others may live 他を生かすため』に表れています。

 

想像してみてください。

 

あなたが絶海の孤島で吹雪と高波に囲まれた中で、誰も助けに来れない『もうだめだ』と意識を失う寸前に、空から助けに来てくれる人がいたら。

それがメディックであり、彼らがそんな過酷な状況においても頑張れるのはなぜか?

 

それは格言どおり他の人の為であろうことに間違いないでしょう。

 

さて、過酷な状況と人の為という点においてはコーチの役割にも共通します。

 

コーチの仕事はクライアントのゴールに向けて、エフィカシー(自己能力の自己評価)を高めていくこと。

 

と言った具合に、時に『ゴール達成しました!』という華々しさだけが伝わりがちですが、実際のセッションは案外と泥臭いものです。

 

大概のクライアントは悩んでいます。

 

物理的に大しけの難破船や吹雪の山に取り残されているわけではありませんが、未来が見えない、希望が見えないという点においては情報空間における絶海の孤島での遭難です。

 

でも、本当は絶海ではなくて脱出ルートがあるよとスコトーマ(心理的盲点)を外す役割もコーチは担っています。

 

コーチはその状況から救助(救助という表現が適切かどうかは分かりませんが)しなければなりません。

 

そのためには、メディックがどんな場所にも降りられるという気構えが必要なのと同様に、コーチにも誰、そしてどんなクライアントが来ても大丈夫だという気構えが必要です。

 

ゆえに、厳しい局面も多々あります。

 

まずクライアントの人生そのものが掛っています。

 

クライアントは決して安いとは言えないフィーを払ってまで、なぜそのコーチのセッションを受けたいのか?

 

人によっては現状の外に一歩を踏み出すことは、とてつもなく怖いことです。

 

そんな恐怖を味わいたくないというホメオスタシスの抵抗は想像よりも厳しいものです。

 

下手をするとコーチとクライアントの両方が再起不能という事態もあり得ます。

 

またクライアントを現状の外に連れていく作業は、それ自体が現状の外の作業なので、どんなに危険な事態が待ち構えているのか計り知れません。

 

しかし、コーチはメディックが遭難者と伴に生還するのと同じように、無事にクライアントをゴールに導いていかなければなりません。

 

そこには『That others may live 他を生かすため』と共通する何かがあるように思います。


2017-05-27 | Posted in 未分類No Comments » 

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